山口瞳著。おそらく、著者60代の頃の作品集。こうした、年配男性の話を直接聞くのはしんどい気もするが、エッセイなら読んでも苦にならない。いずれ自分もこうした年代になるのだな、と思いながら読み進める。世代間の差というものは、経験や時代背景を反映したものであり、避けられないものであると同時に、相互に理解しあうことに限界はあると改めて感じる。違いを違いのまま受け入れるしかないのだろうが、難しいのはそれを「お互いに」受け入れることだ。
本作で印象に残ったのは、著者の従軍時代の記憶を綴ったところ。軍隊で経験したいびり(いじめ、体罰)、階級主義、理論軽視の精神論主義など、今も日本に受け継がれている「日本的なもの」が鮮明に描かれている。敗戦という強烈な出来事を経たにもかかわらず、日本的精神はそれほど変わらなかったのかもしれない。