でもこれは、自分より完成度の高い性質については言えない。それを無から作り出すことは、明らかに不可能なことだ。そして、より完璧なものが、完成度の低いものの結果であり、したがってその従属物だというのは、それが無からでてきたというのと同じくらい気持ち悪い。だからそれがわたし自身から生じたと考えることもできない。すると結局、それはわたし自身よりも実際にもっと完成度が高いものによってそこにおかれたのだと考えるよりほかにない。そしてその存在は、わたしが考えもつかないようなあらゆる完成度を中に持っているはずだ。つまりそれを一言でいうなら、それは神だ。
いや、それはきっと違う。それはイデア論だ。人間が不完全であり、無知だ
からこそ、その欠点を埋めてくれる大いなる存在、つまり神の概念が生まれた
のだ。人間が持つ、如何ともし難い限界性を恨み悲しみ痛感するからこそ、完
全/全知全能の存在が求められたのではないだろうか。
不完全は、完全の否定形でありながら、しかし完全の先に現れたことばだ。
完全は、不完全という言葉を用いずに説明することは出来ないが、
不完全は簡単な一言で説明できる。それはつまり、人間、だ。