岩井 俊憲著。アドラー心理学を活かした子育て指針の書。著者が述べる主張の内容自体は、間違っていると思わないのだが、残念ながらどうにも腹に落ちない。著者の自慢が鼻につくのか、著者の配偶者の「子育て日記」が嘘くさいと感じるからか、それとも著者のセミナーの宣伝部分を鬱陶しく感じるからか。
ともあれ、「尊敬、共感、信頼を忘れずに、勇気づけする子育て」という方針自体は大いに共感できるので、他の著者によるアドラー心理学を踏まえた子育て書籍を読んでみようと思う。
『坊っちゃん』の時代―凛冽たり近代なお生彩あり明治人 (アクションコミックス)
関川夏央、谷口ジロー著。夏目漱石を中心として、明治時代の日本人を描く群像劇。この作品のように当時の視点に立って描かれてみると、漱石もひとりの苦悩する日本人であり、ビールも飲めば、縁側で爪を切り、失言をして悔やむこともあれば家計を心配したりもする。考えてみれば当たり前の話ではあるが、「文豪漱石」というレッテルが張られてしまうと、そうした人間としての普通の生活が想像できなくなってしまう。人間を、その人間のとおりに見るのは現代人同士でも困難なことだが、歴史上の人物だと猶更難しい。
漱石の作品で読んだことのある作品は、吾輩は猫である、坊っちゃん、こころ、そして夢十夜といったくらいか。生前、祖母がもう90歳前後だったころだと思うが、家で読書をしていたとき、漱石の夢十夜を読んでいて驚いたことを思い出す。そのときは祖母が「古典作品」を読んでいたことに驚きを覚えたのだが、改めて考えてみれば、明治生まれの祖母にとっては、夏目漱石は決して歴史上の人物ではなく、同時代の作家なのだ。いうなれば、私が筒井康隆や村上春樹の本を読むのとそう変わらない。
もし祖母が今も生きていたら、漱石の作品についてどう思うのか、同時代の人からはどう読まれていたのか、そんなことを聞いてみたかった。
谷口ジロー著、夢枕獏原作。すごい、の一言。登山という行為の激烈さと孤独感、それにもかかわらず登山家が夢中になるその魅力が余すところなく描かれている。とにかく、すごい。
元々は、漫画家谷口ジロー氏が亡くなったことを受けて、その弔意表明として読み始めた本書であるが、作品の想像以上の迫力に圧倒されてしまった。「孤独のグルメ」も好きな作品ではあるが、インパクトの大きさでは比較にならない。原作は読んでいないが、漫画というメディアでなければこの迫力は伝わってこない気がした。グランドジョラス失敗からの生還、そしてエベレストという世界一の山との格闘と、印象に残る場面は大変多く、また名言も多い作品である。羽生と深町というふたりの男が、それぞれの人生を生き抜く、熱い物語だった。
李白 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス 中国の古典)
筧久美子著。詩仙李白の詩について解説しながら、彼の人生を追う書。本書最後の中国地図を見ると、彼がいかに長い距離を旅していたのかが良くわかる。当然のことながら鉄道すらない時代に、なんともすさまじい行程だ。詩は人生なら、旅もまた人生。今日は私も出張だったので、移動中に本書を読んでいた。
酒を愛した詩人として有名な李白だが、決して楽しい酒を詠うばかりではなく、むしろ詩に込められているのは彼の孤独と、自らの不遇への嘆きだ。活躍の場をつかめなかった者は、いつの世にもいるということ。仙人のように暮らしたいと思っても、人は独りでは生きられない。人の間にいるからこそ、孤独を感じざるを得ない。
千年以上の時を超えても、李白の詩は読める。きっと私には大体の雰囲気レベルでしか理解できていないのだろうが、それでもその詩を美しいと感じることができる。時代も、国も、言語も超えて、何かが伝わってくるとは、なんとも不思議なことだ。
長男が初のインフルエンザ罹患。木曜日の夜に身体が熱いと泣き続けたので、風邪かなくらいの気分で金曜の朝から小児科にいったら、お医者さんは迷うことなく綿棒を花に突っ込んだ。長男ぎゃん泣き。そして「陽性ですね。保育園も5日間はお休みしてください。」とのこと。
全く予想していなかった結果に驚き慌てる親二人。ローテーションを組んで仕事に都合をつけつつ、思ったのは「次にどちらかがインフルエンザにかかったら、仕事どうしよう」ということ。それからは家の中でも基本的にマスクをして過ごし、長男の鼻をかんだティッシュはビニール袋に捨ててすぐに手を洗い、感染を防ぎつつ、野菜と果物とヨーグルトを食べてよく寝て免疫力を高め、今日も発症しませんようにと祈るようにして過ごす日々。
ようやく長男の熱も下がり、今のところは親はいずれも健康体(たぶん)。健康というものは有難いものだな、と身に染みて思う冬の終わり。