雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

『坊っちゃん』の時代―凛冽たり近代なお生彩あり明治人

 

 

 関川夏央谷口ジロー著。夏目漱石を中心として、明治時代の日本人を描く群像劇。この作品のように当時の視点に立って描かれてみると、漱石もひとりの苦悩する日本人であり、ビールも飲めば、縁側で爪を切り、失言をして悔やむこともあれば家計を心配したりもする。考えてみれば当たり前の話ではあるが、「文豪漱石」というレッテルが張られてしまうと、そうした人間としての普通の生活が想像できなくなってしまう。人間を、その人間のとおりに見るのは現代人同士でも困難なことだが、歴史上の人物だと猶更難しい。

 

 漱石の作品で読んだことのある作品は、吾輩は猫である坊っちゃん、こころ、そして夢十夜といったくらいか。生前、祖母がもう90歳前後だったころだと思うが、家で読書をしていたとき、漱石夢十夜を読んでいて驚いたことを思い出す。そのときは祖母が「古典作品」を読んでいたことに驚きを覚えたのだが、改めて考えてみれば、明治生まれの祖母にとっては、夏目漱石は決して歴史上の人物ではなく、同時代の作家なのだ。いうなれば、私が筒井康隆村上春樹の本を読むのとそう変わらない。

 

 もし祖母が今も生きていたら、漱石の作品についてどう思うのか、同時代の人からはどう読まれていたのか、そんなことを聞いてみたかった。