雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

恋愛小説家


 高い知性を持ちつつも強迫神経症で皮肉家、かつ社交性がゼロである主人公メルヴィン(ジャック・ニコルソン)と、癇癪持ちでシングルマザーのキャロル(ヘレン・ハント)、そして隣人でゲイの画家サイモン(グレッグ・キニア)と飼い犬の物語。それにしてもジャック・ニコルソンはクセのある男を演じさせると上手すぎて困る。役作りに徹底し過ぎて、観客ですら不快にさせる主人公になってしまった。


 「本当の」人柄はどれほど良くても、それを人に伝えられないために嫌われる人は、確かにいる。いや、そうした側面は、誰しも持っているだろう。つい皮肉を言ってしまう、ついイラッとして八つ当たりをしてしまう、相手の感情を推し量ることができない、照れ隠しで下らない冗談を言って傷つけてしまう、本心を言って傷つくのが怖くて嘘をつきてしまう・・・。主人公メルヴィンの傍若無人さも、結局は(子犬との別れで泣くほどの)小心さの裏返しに過ぎない。そんな彼を救ってくれる、キャロルの(ヒステリーから解放された後に見せる)優しさと誠実さが暖かい気持ちにさせる。救いようがないほど不器用な生き方から、一歩前に進むにはものすごい勇気がいる。そしてその勇気を出すには、自分を理解してくれる友人が欠かせないわけで。人付き合いに自信が無い人ほど、この映画を観て共感できるのではないだろうか。


 以下、ネタバレになる。邦題の「恋愛小説家」は、確かにこの映画の一面を表しているけれど、ちょっとピントが外れているように思える。しかし原題の"AS GOOD AS IT GETS"を作品の内容を踏まえて日本語にしようとしても、これはなかなか難しい。「最高だ」という意味なのかもしれないが、実際には「最高!」と言えるほどのハッピーエンドではないし、一方「これ以上良くはならない」というほど悲観的て停滞感のある話でもない。強いて言えば、「まあ、悪くないね」というくらいの意味だろうか。登場人物は、様々な局面を経て、ほんの少しだけ前に踏み出して希望を見出し、それぞれ問題を抱えつつも「まあ、悪くない」エンディングを迎える。大ヒットする映画だとは思わないが、深みのある内容で、大人向けの作品と言えるだろう。