雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

世界の終わりの過ごし方

 NHKの「サンダンス・NHK国際映像作家賞特集」で鑑賞。タイトルに惹かれて観てみたのだが、国家的激動の時代を、あくまで個人(普通の若者)に視点を合わせて、淡々と、暗く描いていたところが良かった。


 チャウシェスク末期のルーマニア。平凡な家庭の長女エバがこの映画の主人公。彼女のことが好きでたまらない愚直な面を持つけれど父親や社会に逆らえない若者アレクサンドロと、ドナウ川を越えて新しい生活を得ようとする、やや風変わりと人からは思われるが気概のある若者アンドレイが彼女を慕う。ふたりの間で彼女の心は揺れつつ、しかしどちらにもたなびかず、常に微笑を浮かべて全てを(彼らを、家族を、そして社会そのものを)受け入れるかのような、もしくは流されるがままに身を任せる彼女の浮遊感が私は好きだった。


 人は、運命に翻弄される。もちろん、翻弄されつつも、自身の人生を選び、獲得することは出来るので、逆らえないわけではない。ただ、それでもやはり弄ばれてしまうわけで。この映画に描かれる大人は、皆全て滑稽である。それを、「皮肉」と解釈するのは流石に浅はかだろう。全てをあるがままに受け入れるエバ、現実に屈しつつ苦悩をし続けるアレクサンドロ、現状から脱却して新天地を求めるアンドレイ、映画は、この3人の若者の人生に優越をつけていないし、彼らと「大人」との比較もさほどしていない。無闇な希望も、安直な絶望も絡めずに、淡々と、そして時に切ないエロスをもって描く作品であり、私はそういうところが妙に気に入ったのだった。