- 作者: 日本経済新聞社
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2004/09/18
- メディア: 単行本
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様々な労働者像を通して、現代日本における「働くということ」を描こうとしているのだが、何とも暗い本だ。景気回復もまだまだ途上であるし、他国も交えた熾烈な競争の中にあるので、解雇、給料削減、労働時間の増加と、確かに日本の労働像は暗くならざるを得ないのかもしれない。しかし、どうにもこの本の編集陣の論調の基底には「他人事」という意識があるのではないか、という気がしてならないのだ*1。
- 従来の「会社に対する忠誠」という価値観を突然否定されて困惑する中年層
- 解雇や、会社の倒産に遭遇したが、これまでの経験の積み重ねを捨てることの出来ない人たち
- 働くことの意義がつかめず、疎外感に押しつぶされている若者
- 家族生活と仕事の両立が出来ず、生きることの意義に悩む人たち
などについては、淡々と突き放したように記述する一方で、
- 徹夜を厭わず、少しでも多く仕事をしようと猛烈に頑張る人
- 経営幹部の養成のため、一部の社員を選抜して出世競争をさせる経営陣
- ベンチャー起業に成功して、「俺は一般人とは違う」と自信を持つ人
などについては、手放しで賞賛するのだ。この差は、おそらく「頑張って社会全体に利益をもたらす人は偉い」という価値観に基づくのだろう。マクロで考えればそれは整合性のとれた考え方なのだろうし、そういう風に記事を書くのは日経だから当然なのかもしれないけれど、どうしても違和感が残った。
確かに、競争によって社会全体の富が増えれば、(再配分さえ適切に行われるのであれば)各個人の所得も増えて、皆幸福になると言えるのかもしれない。しかし、生活に必要なレベルを超えた所得については、必ずしも所得が増えれば幸福になるとは言えないのではないか。労働の喜びを否定するつもりはないし、仕事に打ち込むことや所得を増やすことで幸福感を得られるなら勿論それで良いのだが、一方で生活や家族、趣味や遊び、そんなもので幸福を感じる人も当然いるわけで、そういう人にとっては「ほどほどの仕事」を追求しなければ幸福にはなれないわけだ。
「仕事ってのはそんな甘いものじゃないんだよ」と言われそうだが、しかし皆が過労死寸前まで働くことが望ましいと考えているわけでもないだろう。どこかに、それぞれの「ほどほどの仕事」というラインがあるのではないだろうか。ところが、この本ではそのような考えは推奨されない。とにかく頑張れ、工夫しろ、再出発しろ、歯を食いしばれ、燃えろ、と煽ってくる。「こんなに頑張っている人がいるのに君ってやつは・・・」と感じてしまうのは流石に被害妄想だろうか。
この本は事例が相当数あるので、良い記事もたくさんあることは間違いない*2。しかし・・・と、どうにも後味の悪い読後感になってしまった。うーん。