
知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社+α文庫)
- 作者: 苅谷剛彦
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/05/20
- メディア: 文庫
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「よく考えろ」という人はいても、「どう考えるか」を語れる人は少ない。もちろん現代に生きる人ならば論理的思考については何となく身についていくのだろうが、著者の提案するような複眼思考を手に入れるのはなかなか骨が折れる。ただ、思考に「深み」が欲しければ、多少時間がかかっても「多面性を発見すること」「予期せぬ結果を見つけること」「メタや前提を問うこと」が必要なのだろう。良い教科書だった。

- 作者: M.アウレリウス,鈴木照雄
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/02/11
- メディア: 文庫
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それでもこの本は読む価値がある。大いにある。何と言っても著者はローマの皇帝なのだ。当時の世界最高権力者の日記が、こんなにも青臭くて、うじうじしていて、自分を叱咤ばかりしているのだ。富も名声も、快楽も権力も手に入れられる人間が、ただひたすらに「良く生きるにはどうすべきか」と悩み続けている姿に私は感動したのだ。
ストア哲学については、正直あまり興味を持てなかった考え方なので省略するが、その他の主なテーマは
- 自分がどう考え行動するかが重要であり、他者の評価に重きを置いてはいけない
- あらゆることは変化して死にゆく定めであり、人生も「私の知る世界」も儚いものと知れ
- 自分が決定できるものは自身の考え方と行動だけであり、そしてそれだけで十分なのだ
- 過去でも未来でもなく、今自分がどう生きるかということのみに懸命に、そして誠実に生きろ
- 足るを知れ。いかなる事態も、それを受け取る者の気持ちで変化するのだから
といったことが有機的に組み合わされて繰り返し延々と語られる。そしてまた、筆者が繰り返し自身を鼓舞し続けたことを考えれば、彼が何に悩んでいたかということもすぐに分かるわけで。つまり、この皇帝は
- 他者からの評判や名声に左右され、気にかけてしまう自分
- 死への恐怖、永遠への憧れ、死後の評判が頭から離れないこと
- 他人の行動や考えにまで影響(支配?教育?怒り?)を及ぼそうとして失敗し続けたこと
- 過ぎたことを悔やみ、未来を案じる自分
- 自身の抑えられない欲望。様々な事態(事実)そのものに心が動じてしまうこと
といったことにずーっと悩み続けてきたのだ。私は、人間の悩みがあまりに変化していないことに驚いた。まさか皇帝も2000年後の、極東にある島国の一平民に共感されるとは思っていなかっただろうけれど。人間の生き様に上も下も無い。だからこそ「よく生きる」ことは、大変に難しい。
(追記)
蛇足ながら、このテキストを読む際にはストア哲学と国家(ポリス)について基礎知識があった方が良いでしょう。ストア哲学は、文庫の後半に解説が載っているので、それをどうぞ。理性尊重と肉体蔑視、神や国家への無条件の敬意が筆者にとっては当然の前提だったわけです。
*1:訳だってもう少し分かりやすい日本語に置き換えれば良いのに、と思うところがいくつもある