雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

東京その1

仕事を終えて、そのまま京都駅から新幹線に乗って東京へ行く。久しく会っていない友人と飲み、楽しいときを過ごす。ありがたいことだ。


皆と別れて、時は23時過ぎ。以前から挑戦してみたかった、カプセルホテル初宿泊である。料金が安いから、ではなくて、泊まってみたいから泊まるのである。高校生くらいのときに、初めてカプセルホテルなる言葉を知り、それ以来ずっと興味を持っていたのだ。イメージとしては、『2001年宇宙の旅』に出てくる人工冬眠カプセル。そんなカプセルが蜂の巣のように連なって、そこに24時間働くサラリーマンがうじゃうじゃ寝ている、という感じ。なんて非人間的なところなんだろう。これは一度泊まってみなくてはなるまい、と思い続けてようやく念願の初体験である。


楽天トラベルで予約してあったカプセルホテルへ行くことに。構成は大きく3層から成り、下層は受付および大浴場、中層は食堂および休憩室、上層は洗面所・個人ロッカー・そしてカプセルである。ちなみに宿泊可能なのは男性だけであった。


私は受付を済ませるとロッカーの鍵と「着替え」を渡された。ここの客は皆荷物および私服はロッカーに入れて、老いも若きも全員同じ服を着ることになるのだ。カプセルホテルユニフォーム。色褪せた黄緑色の上下半袖半ズボン。気分はもう囚人である。


とりあえず風呂を済ませ、今夜の寝床である我がカプセルへ行く。「カプセル室」と書かれた扉に「室内およびカプセル内では飲食禁止・携帯禁止・私語禁止」とあり、ちょっと気が滅入る。カプセル内は「自分の部屋」では無いのか・・・。カプセル室はひとつのフロアに約50ほどのカプセルが詰まっている薄暗い部屋だ。カプセルは縦2×横5で1セットのつくりであり、イメージとしては2段ベッドを5つ並べた感じ。普通のホテルなら4部屋ぐらいの広さだろうか。なんてボロい商売なんだ。


自分のカプセルの番号を確認して、中に入る。大きさは、縦1M×横1M×長さ1.7Mといったところか。内部にあるのは照明と、天井部分に収納されているテレビだけだ。そしてカプセルは、実は密室ではなく、蓋は単にカーテンを降ろすだけなのだ。ってことは、つまり、周りの声聞こえまくり。もうすでにいびきの合唱が始まっている。壁面に「アダルトチャンネル(有料)が見たい方はフロントまで」と書いてあるが、一体誰がこんな状況で観るのだろうか?


自らの置かれている状況のひどさを確認して満足してから、飲み物の自動販売機を求めて休憩室に行く。そこは休憩室というより仮眠室であり、皆薄明かりの中、やはり同じ黄緑色の囚人服を着て雑魚寝していた。長距離フェリーに乗っているかのようだ。どうもこちらの方が宿泊料金が安いようだが、これはこれで厳しい環境である。


さて我がカプセルに戻り、周りがいびきの中で色々と考え事をする。「それにしても今夜私はちゃんと寝られるのだろうか」などという不安を感じるまでもなく、気付けば8時間睡眠。意外に寝られるものなのだ、と少し驚く。


「確かにこの値段は世間の宿泊料金に比べたら断然安いけれど、あの宿泊サービスでこの値段を要求するのはちょっとおかしいですよあなた」という金額を無言で支払い、ホテルを出る。とりあえず念願のカプセル体験が出来たのでひとまずは良しとしよう。


ただぼんやりと思ったのは、私は華美や贅沢を嫌う性質だけれども、年を経るに連れて自分の満足水準は確実に高まっているようであり、そしてその水準は容易には下げられないものなのではないか、ということ。このことを、自分がわがままになっていると捉えるつもりはないけれども、ただ何となく老いを感じてしまい、少し不愉快に感じた。欲望を抑えることに大した意義は無いと思うのだが、一方で無制御な欲望に振り回される人生も面倒だ。「足るを知る」ってのは本当に難しい。