雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

宇宙になぜ、生命があるのか~宇宙論で読み解く「生命」の起源と存在

 

 

 

戸谷友則著。本書は、宇宙物理学の研究者である著者が、生命の起源について考えてみたもの。生物学者ではないからこその視点は面白く、また基礎的なレベルから説明してくれるものの、それでも大変難しく、ついていくのに精一杯だった。

 

生物とは何か、また自己複製の仕組みについて、生物をその最小レベルまで分解していきながら、同時に視野は宇宙の成り立ちと規模、さらに観測外の宇宙まで視野を広げていき、ミクロとマクロが交差していく。

 

この宇宙がどのようにして誕生し、広がり、銀河系が出来て太陽と地球と月が生まれ、いずれはこの星がどのようになっていくか、ということについては科学的に説明することが可能である。にもかかわらず、「一番最初の生命」がどのようにして生まれたのかを説明する理屈が見当たらない。

 

結局、原始生命がどこでどのように誕生したのかは分からない。海の浅瀬の波の中か、海中の熱水噴出孔か、それとも地球外の隕石に付着して運ばれてきたのか。仮にそこでアミノ酸が作られたとしても、それらが遺伝子をもった生命になるには、あまりにも大きなが壁がそびえ立つ。原始生命誕生の難しさについて、著者は英国の天文学者フレッド・ホイルの言葉を引用している。

「サルがタイプライターで適当にタイプしていたらシェイクスピアの小説ができた」「バラバラに分解した時計を袋に入れて振っていたら元の時計に戻った」

 

著者は、この広大過ぎる宇宙の中では「地球は特別な星ではない」、「生命が誕生することは確率としてはあり得ること」と言いつつも、本書を通して著者が一貫して表明しているのは「生命の不思議さ」であり、生命への畏敬の念ではないか、と感じた。どれだけ「確率上はあり得ること」と言ったところで、やはりこの生命のダーウィン進化的に自己増殖する仕組みについて、どうしてこんな不思議なことが起こりえたのだろうか、と一種の感動を持たざるを得ないのだろう。私は本書を読んでいて、とにかく説明についていくのに必死だったレベルの読者だが、それでも著者が抱く「生命の不思議さ」には最後まで共感し続けることができたので、それだけで満足である。