雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

1日外出録ハンチョウ(10)

 

 

以前から「1日外出録ハンチョウ」は「中間管理録トネガワ」と並ぶ名作だと思っていたが、特にこの第10巻は素晴らしかった。これまで、各登場人物の人物像をしっかり設定してきたから、ただおしゃべりしてご飯を食べているだけでも面白くなる。劇的な展開など用意しなくても、「人間」を深く掘り下げて描けるなら面白い漫画になるということか。


特に印象に残ったのは、第77話「食叫」(リコッタパンケーキが食べたい・・・!)である。自身の脳内にいる多種多様な自己について、そのいずれにも存在の意味を認め、同時に抑制からの解放を描く名作だ。第78話「雨宿」も、どのような環境下にあっても楽しめるコツを面白く描いている。自分ではどうにもならない天候に意識を向けるのではなく、どうしたら「楽しく在る」ことができるのか、至るところに小ネタを散りばめつつも、ささやかなヒントを教えてくれている。

 

絵面的には美しい漫画ではないので万人受けはしないだろうが(そもそも「カイジ」読者以外は、本書を手に取ることすらないだろう)、大切なことを説教臭くなく描いており、意外なほどに読後感が良い作品である。ある意味で、地下住人という設定の勝利なのかもしれない。