雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

確率的発想法

確率的発想法~数学を日常に活かす

確率的発想法~数学を日常に活かす


 この本のタイトルからは、まさか自分が感動して涙ぐんでしまうことになるとは予想だにしていなかったが・・・。数学の本、というよりはモノの考え方の根っこの部分についての本、つまりは哲学書だというべきだろう。学校で習った確率についての知識なんて、(大数の法則を信じるという前提に立たなければならないと言う点で)一面的なものだったのだなあ、と思い知らされた。ロールズの正義論の解説を読めば分かることだが、未来は予測できないし、その予想に対するオッズすら分からないのであれば、結果から振り返って安易に「自己責任」なんて言葉を使うのは勝者の理屈なのだ*1


 実に多様な話題が取り上げられており、おそらくはいずれも入門編のレベルにとどまっているのだろうが、このテーマに全くの素人である私には理解するのが一苦労であった。著者の小島寛之氏は、難しい話を噛み砕いて分かり易く説明する能力が非常に高い、というか、「辛抱強く」教えてくれる人だと思う。ありがたいことだ。


 特に印象的だったのは、集団的不可知性(と、その対になるコモン・ナレッジ、具体的には株式暴落についての理屈)についての話と、論理的選好理論において公共財が果たす公理系修正の役割*2かな。ナイトの不確実性回避の理論も面白かったし*3。・・・いや、もう一度読み直さないと理解が危ういところが結構あるかもしれない。

*1:ちなみに自己責任論が成立するためには、1ルールが公平であること、2各人が効用や選好を完全に理解していること、3情報と知識によって参加を回避する可能性が確保されていることが必要。p101参照。

*2:人は、過去の経験から「正しい」行動原理を作り出すが、それが帰納的な考え方に基づく限り、常に過誤をおかしている可能性がある。従って、乱数的な変化にぶつかるか、「正しい情報」をもたらす公共財を手に入れて自らの原理・主義を修正することが必要である。

*3:期待値の計算以前の問題として、不確実性の高い方を嫌うということ。感覚的にはよく理解できる。