藤沢周平著。隠居した元藩の用人をめぐる日々の出来事を書きながら、物語は大きく展開し、いつのまにか清左衛門も藩全体のお家騒動に巻き込まれていく。しかし、あくまでこれは隠居した清左衛門の話であり、仕事、家族、友人、老いと病気、過去の清算、そうした現代にもつながるテーマが非常に読みやすく、そして美しい文体で描かれている。
話の最後、病気を患った友人が懸命に生きようとする姿に感銘を打たれる清左衛門の心理描写で終わっているところが良い。
衰えて死がおとずれるそのときは、おのれをそれまで生かしめたすべてのものに感謝をささげて生を終ればよい。しかしいよいよ死ぬるそのときまでは、人間は与えられた命をいとおしみ、力を尽くして生き抜かねばならぬ
私は早く隠居したいが、清左衛門の言葉を借りると、「隠居は急がぬ方がよい」ようで、さてはて。