この映画を観ていて、村上春樹がエルサレム賞を受賞した時のスピーチを思い出した。宗教や民族、国家や規則、そうした様々な壁(システム)により、あらゆる卵(個人)は負けてゆく。しかし、時には勝ち負けが問題にならないときもあるのかもしれない。言い換えれば、例え勝ち目のない戦いであったとしても逃げるわけにはいかないときがあるのだろう。
不思議な、というか良く分からないところも多いこの映画であるが、最大の謎はやはり結末だろう。あのシーンを、不安に打ち勝ち、自らの決断に運命を委ねた女性が(国家も家族も、全てを捨てたからこそ)軽やかに壁を越えてゆく姿を描いたと見るべきなのか、それとも、真っ直ぐに壁に突き進んで壊れる*1人の弱さを描いたものと読むべきなのか、それが私には分からない。
(追記)
映画館のチラシを観て驚いた。5月ごろにエミール・クストリッツァ監督の新作「ウェディング・ベルを鳴らせ!」が上映されるとのこと。またあのエネルギーに満ち満ちた世界と出会えるのかと思うと今から楽しみでならない。ミキ・マノイロヴィッチ(Miki Manojlovic)も出演するらしいし。
*1:映画冒頭に表示された「bitter end」にはどういう意味があったのか、またクレジットロールの最後に表示された「一度国境を越えると、二度と戻って来れない」という文言には如何なる意味があったのか、とふたつをあわせて考えると、・・・彼女は国境線上で射殺されてしまうのではないか、と思ってしまったのだが。