- 作者: 吉本ばなな
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1998/06
- メディア: 文庫
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『キッチン』、『満月―キッチン(2)』そして『ムーンライト・シャドウ』。いずれも人生の美しさと喪失の苦しみを描いたもので、とても切ない気持ちになる。人間である以上、生きている限りは、本当に本当に大切なものをいくつも失ってきてしまっているわけで、だからこの本を読むと、心の穴をえぐられるような、鋭すぎる切れ味を十分に感じてしまう。・・・それはもちろん、あまり嬉しくないことだが。
ただ、孤独と絶望の中であがくときにこそ、日頃は見えていない人生の本質が現われる――それを肯定的に捉える吉本ばななさんの文章は、凄まじいほどに美しいものだなと思う。読んで良かった。最後に、文庫版あとがきにとても印象深い文があったので、引用しておきたい。
感受性の強さからくる苦悩と孤独にはほとんど耐えがたいくらいにきつい側面がある。それでも生きてさえいれば人生はよどみなくすすんでいき、きっとそれはさほど悪いことではないに違いない。もしも感じやすくても、それをうまく生かしておもしろおかしく生きていくのは不可能ではない。そのためには甘えをなくし、傲慢さを自覚して、冷静さを身につけた方がいい。多少の工夫で人は自分の思うように生きることができるに違いない。