ドン・ウィンズロウ著、峯村 利哉訳*1。前作「犬の力」を読んだ者にとって、本作は読まなければならない作品だし、きっと前作の衝撃を上回る何かを求めざるを得ないし*2、そして何より1ページ目をめくってからは自分のプライベートな時間をごっそり奪われることを覚悟しなければならない、などと思いながら手に取る。
やっぱり、ドン・ウィンズロウはこういう作品を書かせると超一級だ。間違いない。それにしても、人が良く死ぬ。あまりにも多く死に過ぎて、前作のハイライト、橋の上から幼子を放り投げるシーンのような、読んでいて凍りつくような場面はない。「人がゴミのようだ」(ムスカ大佐)と感じてしまうほどに、人が死ぬ。
今回の登場人物で印象に残ったのは、「狂気のエディ」ことエディ・ルイス。彼の存在が、この救いのない物語をさらに加速させ、一方で冷静さとユーモラスをもたらした。戦場にあって、彼一人、覚めているのだ。微妙な立ち位置をキープしつつ、それでいて恨みは忘れない。
物語最後のしめくくりは、著者がきっと考え抜いた末に選んだ展開なのだろう。アダン・バレーラとアート・ケラーは同じく「汚れた身」である。自分ひとり「普通の人生に戻りたい」という望みは、抱くことすら許されない。だから、彼は撃ったのだろう。これでもう続編は出ないだろう、と思うと、少し悲しい気もしたが、とにかく読書後はぐったりと疲れた。こういう作品との出会いがあるから、睡眠時間を削ってでも本を読むことは止められない。