雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

ザ・カルテル

 

ザ・カルテル (上) (角川文庫)

ザ・カルテル (上) (角川文庫)

 
ザ・カルテル (下) (角川文庫)

ザ・カルテル (下) (角川文庫)

 

 

 ドン・ウィンズロウ著、峯村 利哉訳*1。前作「犬の力」を読んだ者にとって、本作は読まなければならない作品だし、きっと前作の衝撃を上回る何かを求めざるを得ないし*2、そして何より1ページ目をめくってからは自分のプライベートな時間をごっそり奪われることを覚悟しなければならない、などと思いながら手に取る。

 

 

 やっぱり、ドン・ウィンズロウはこういう作品を書かせると超一級だ。間違いない。それにしても、人が良く死ぬ。あまりにも多く死に過ぎて、前作のハイライト、橋の上から幼子を放り投げるシーンのような、読んでいて凍りつくような場面はない。「人がゴミのようだ」(ムスカ大佐)と感じてしまうほどに、人が死ぬ。

 

 

 今回の登場人物で印象に残ったのは、「狂気のエディ」ことエディ・ルイス。彼の存在が、この救いのない物語をさらに加速させ、一方で冷静さとユーモラスをもたらした。戦場にあって、彼一人、覚めているのだ。微妙な立ち位置をキープしつつ、それでいて恨みは忘れない。

 

 

 物語最後のしめくくりは、著者がきっと考え抜いた末に選んだ展開なのだろう。アダン・バレーラとアート・ケラーは同じく「汚れた身」である。自分ひとり「普通の人生に戻りたい」という望みは、抱くことすら許されない。だから、彼は撃ったのだろう。これでもう続編は出ないだろう、と思うと、少し悲しい気もしたが、とにかく読書後はぐったりと疲れた。こういう作品との出会いがあるから、睡眠時間を削ってでも本を読むことは止められない。

*1:ドン・ウィンズロウなのに、翻訳は東江 一紀さんでないのは、とても悲しい。

*2:本作を、前作と比べてどうかと考えると、・・・どうしても、「犬の力」には及ばないだろう。というより、あの作品と比べてどうか、と考えることにあまり意味はない。前作は、あまりに凄すぎたのだ。