- 作者: 司馬遼太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/10/01
- メディア: 文庫
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司馬遼太郎著。竜馬がゆくと同じ幕末期の歴史小説だが、こちらは反維新側に立つ河井継之助が主人公。河井継之助とは、まったくもって聞いたこともない名前だ。
歴史は勝者によって紡がれるものであり、これまで私の日本史観における明治維新とは、あくまで明治新政府側からの視点によってのみ構成されていた。だから、激動の幕末期において、薩摩や長州、土佐を除く諸藩が、そして本書の舞台である長岡藩などの譜代大名の藩が一体どう動いていたのか、ほとんど知らなかったし特に興味も持たなかった。単層的な私の日本史に、少しは厚みがついただろうか。
交渉が不調に終わり、負けを覚悟の戦という運命に進まざるをえなくなるシーンは、何とも物悲しく、そこからの激戦の場面も含めて本書のハイライトである。
これまで知らなかった歴史の一面を知るというだけでも読む価値のある本書だったが、主人公の河井継之助がまた特異な傑物であり面白い。坂本龍馬と異なり、長岡藩の家臣という立場によってのみ自分が存在するという立場論を終始守り抜き、藩や自分がどうあるべきかの「原理」を求める、陽明学を身を以て実行する主人公。悲しいまでに己を縛る姿は、やはりまた武士の姿なのだろう。朝に道を聞かば夕べに死すとも可なり。