先日、あまりにも天気が良くて暖かかったので散歩に出かけることにした。街を離れて小山に入り、竹やぶを抜けると梅が咲いていた。梅の香りとはこんなに甘いものだったのか、と素朴に驚き、更に奥に歩いていくと小さな集落に出た。
最初に目に入ってきたのは瓦の色。太陽に照らされた深い黒が綺麗だった。家は全て一戸建てで、どこも広い庭がある。庭には花が咲き乱れ、犬が飼われていた。細い路地を少し歩くと、こじんまりした畑に出る。区画を小さく区切っており、おそらく共同の土地で家庭菜園を営んでいるのではないだろうか。私も2畳くらいの畑が欲しいなあ。米は無理かもしれないけれど、白菜や大根を作ってみたいな、などと思った。初めて訪れたにも関わらず親近感を抱いてしまうこの町ととてもよく似た風景が、私の記憶のどこかに見えた気がした。
この魅力溢れる古い村をぐるぐる歩いているうちに、すっかり道に迷ってしまった。時間はあるのだからと、気にせずにうろうろしているうちに出口が見えた。「昭和」が美しく保存された集落から抜け出た私の目の前には、統一感の無い、工夫も美学も無い、現代的な市街地があった。少しがっかりして、一寸後ろを振り返って、それから家に帰ろうと歩き出した。これは景観意識の現われなのか、それとも単なるノスタルジーなのかは、良く分からない。ただ、またこの村に来よう、とだけ思った。