森崎東監督、岩松了*1主演、岡野雄一原作。認知症の母、子、孫の3人を中心とした日常の物語。
誰もが老い、いつかは呆ける。それでも、その人間の中には、過去には、物語がたくさんつまっているわけで、何も新しいことのインプットだけが重要とは限らない。つらい状況の中にこそ、ユーモアは輝く。華やかさはないけれど、温かみのある、良い作品だった。
個人的に気に入ったのは、主人公ゆういちの幼いころの父親のエピソード。酒乱で飲んだくれのダメな父親だったが、ふと突然夜中に目を覚まし、隣で寝ている子どもを「脈がない!」と医者の家まで連れていき、眠っているだけだと医者に怒られた後、子を背負ってトボトボと家に帰る場面。しかも雪が降ってきてふたりとも風邪をひいてしまう。怖くて迷惑で駄目な父親の典型なのだが、それでも子どもにとっては、「大好きなお父さん」なのだ。泣ける。
家族というものは、メリットや効率性だけでは(それらが有る方がもちろん良いんだけれど)測れない、不思議なものだ。どうせこの世に完璧な人間関係などないのだから、家族についてぐらい、良い面ばかり覚えてあげる方が良いかもしれない、という気がする。
*1:川の底からこんにちはで、役場に勤める叔父さん役を演じていた役者さんだ。