金成 隆一著。前著「ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く」に続き、アメリカ人の生の声を聴き、現代アメリカの姿を浮かび上がらせると同時に、日本にいては感じることのできないトランプ大統領への評価を記述する本。
アメリカという国は、本当に多様性を象徴する国だ。多様な宗教、多様な民族、多様な思想、地域間格差、そして貧富の差と、本書は複雑なアメリカの一面を描き出す。
前著でも思ったことだが、アメリカの分断(断絶)の深さとトランプ大統領への期待の強さは、日本にいては理解できないレベルだ。前回の大統領選の分析にるとよ反ヒラリー票が相当多かったようで、「トランプが勝った」というよりも「ヒラリーが負けた」という説明を聞いて腑に落ちた。そして、「反ヒラリー」は、「反エスタブリッシュメント」なのだ。
競争は、勝者と敗者を分ける。分断された集団は、一体感を持ちにくい。グローバル化は、この競争を激化する。勝者は、より少数派になる。競争に敗れた者が多数派になるとき、民主主義はどう機能するのだろう。言葉に、そして信条に対して誠実でない政治家が、多数派の敗者に何と語り語りかけるかは、容易に想像できる。スケープゴートを持ち出して「悪いのはあいつらだ。私はあなたがたの味方です。」と分断を煽り、真の問題から目をそらせることだろう。甲本ヒロトが歌った通り、弱い者たちが夕暮れ、さらに弱いものをたたく。
これだけコミュニケーションツールが発達しているにもかかわらず、対話の難しさは一向に解消されない。いや、人間が「自分の見たいように物事を見て、自分の聞きたいように話を聞く」存在であるならば、むしろチャンネルが多様になっていくにつれて、人は自分の気分を良くしてくれるメディアを固定してしまい、断絶は深くなっていくのかもしれない。
父親の世代よりも豊かになることが難しい状況を指して、「アメリカン・ドリームはもう手に入らない」という本書の台詞は印象的だった。前著を読んだ時にも感じたことだが、アメリカの状況は、決して日本と無縁ではない。