雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

定年後 - 50歳からの生き方、終わり方

 

定年後 - 50歳からの生き方、終わり方 (中公新書)

定年後 - 50歳からの生き方、終わり方 (中公新書)

 

 

 

 楠木 新著。日頃意識しない話ばかりだったので、興味深い内容だった。著者自身の経験を踏まえ、また他の定年退職者のエピソードも多数あり、示唆に富んだ本だった。

 

 本来、どこでどのように働くかは個人が自分の意志で決定するものだが、一度組織に勤めだすと辞めるまでは組織の決定に従うことになる。ところが、一定の年齢に達すると、組織から外に出されて一個人に戻ることになる。組織の一部として過ごす期間が長ければ長いほど、その後の自由を持て余すことになる。本書で登場する「会社は天国だ」という言葉は、一見理解しがたいものだが、定年退職者から振り返ってみると、確かにそうした面もあるのかもしれない。「住めば都」は、暮らす場所だけの話ではなく、勤める組織にも当てはまるのかもしれない。しかしながら、その安住に慣れれば慣れるほど、そこから外に出たときに戸惑うのは理解できる。

 

 転職するか、自主的に辞めるか、または定年で退職するか、いずれにしても、いつか必ず組織を離れるときはやってくる。時間をかけて、その準備をする必要がある。他の仕事を探すのか、地域活動(ボランティア含む)に取り組むのか、家族との時間を大切にするのか、趣味を生き甲斐にするのか、とにかく自分の居場所は自分で確保しなければならない。

 

 本書は、死を意識して逆算的に生きることを勧める。未来に向かって積み重ねる生き方から転換し、死に行く自分を受け止めて、何をこの世に置いていくか、それを考えて実践することが必要になってくる。いつか誰しも死んでいく。終わりだけを考えて生きることに意味があるとは思わないが、老いや死を真剣に考えると、「こんなことをしている場合ではない」という意識も強くなる。

 

 また、著者は、子ども時代を振り返って、そのころ好きだったものや得意だったものをヒントに新たな道を模索することを勧めている。人生の連続性、または物語性を取り戻すことで、自身の最後を迎えられたならば、納得感はあるのかもしれない。