野田俊作著。「アドラー心理学」というが、心理学というよりはひとつの哲学と捉えた方が理解しやすい。アドラーさんの考え方によるとこういう見方、生き方もできるね、という風に読むべきではないか。そういう意味で、アドラー心理学を受け入れられるかどうかは、人によると思う。私の場合は、腑に落ちることが多く、かなりしっくりきた。
人間を、モノ扱いせずに人間として接すること。これは「箱」シリーズにおいて最も重要な考え方だったと思うが、本書でも同様の話は繰り返し登場する。縦の人間関係をやめて、横の人間関係に入ること。怒りをもって支配するのではなく、また評価者として褒めるのでもなく、対等な立場で接すること。パターナリズムに陥って(過保護になって)spoilするのではなく、その人自身に責任を負わせること。自身について、「理想像と比較してダメな自分」とみるのではなく、長所も短所も含めて今の自分をありのまま受け入れること。これらは皆、人間というものをどのように認識するか、という点で、大体同じ価値観が根底にあると思う。
人は、目的をもって感情を作ることができる。感情に支配されることもあるが、抗うことも可能である。「自分ではどうすることもできない」と簡単に言うことは、許されないのかもしれない。目的論に立った心理学、というのは、面白い視点だと思う。
人間の心は、機械のように、因果関係だけでは説明できない。仮に過去に何らかの原因が存在したとしても、現在の自分は、自分自身が作り上げたものだ。自分の意志で(意志「だけ」で、とは言えないが)選び取ったものだ。そういう意味で、人は変わりうるし、未来は変えられるし、誰しも幸福になり得る。それは、自己責任論に繋がるので、厳しい見方でもあるのだが。
過去を振り返って後悔するのではなく、未来を思って不安になるのでもなく、「今、ここ」に焦点をあてること。Be Here Now。「他人が悪い/他人を変えたい」と被害者面をするのではなく、今、自分が何をできるのか、何をしたら改善できるのかと考えること。