雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

遠い太鼓

 

遠い太鼓 (講談社文庫)

遠い太鼓 (講談社文庫)

 

 

  村上 春樹著。ヨーロッパ放浪記、といってよいのかどうか、旅行記ともいえるし、滞在記ともいえる(著者自身は、「常駐的旅行者」の視点で、「親しい人々に手紙を書き送るような気持ちで」書いたとある。)。「辺境・近境」を読んだときも思ったが、村上 春樹の紀行文は面白い。著者のように自分を客観的に描けることは、特に私のような自己の客観化が苦手な人間にとっては大変に難しいことだと感じるし、淡々と描かれていながら、とてもリアルで、著者のその当時の思いが伝わってくる本書の文章を、すごいと思いながら読み進めた。

 

 小説とは異なり、続きが気になってページをめくるのが止まらず一気に、という感じではないが、気が向いたときにぺらぺらとめくっていくのが楽しかった。ギリシャもよいが、イタリア編は特に面白い。3年間のヨーロッパ滞在を追体験したようで、読了後(いうなれば「帰国」後)は少し物悲しい気になってしまうほど。

 

よくニューヨークに行って、こういう刺激のある場所じゃないと面白くないと言う人がいるけれど、僕はそんな風には思わない。誰が何と言おうと安心して暮らせる安全な場所がまともな場所である。刺激なんていうものは、人間ひとりひとりがそれぞれに自らの内に作り出していくべきものなのだ。