- 作者: 河合隼雄,谷川俊太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1993/09/07
- メディア: 文庫
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河合隼雄と谷川俊太郎の対談集。フロイトもユングもアドラーも、一冊も読んだことのない私でも理解できる範囲で書かれた、臨床心理学入門講座。
患者に接するときの治療者の心構えについて何度か触れられていたことで、治療者の心の容積というか、感情の器というか、受け入れる側の心的耐性の話が印象に残る。映画「カッコーの巣の上で」に登場する、患者に対して冷徹な看護師も例として挙げられていたが、そうした一見非人間的に見える態度が、実際に患者と接し続けていくためには必要なことなのかもしれない、という話は実感として理解できる。
仕事をしていれば、その業務を遂行するために、不快になったり屈辱的なことに耐えたりしなければならない場合が良くある。労働者である以前に人間なのだから、嫌なことは嫌なわけで。しかし、それも含めての仕事ということであれば、何とかそれを乗り越えなければいけない。そうしたときに、敢えて心を閉ざして、冷徹な態度で、プロとしてなすべきことを粛々と執行する、ということもひとつのやり方であり、仕事の知恵なのではないか、と思うのだ。
人の心は傷つきやすく、案外もろい。生身の心をさらけだして、それでも耐えられるタフな人はともかくとして、毎日の仕事で傷ついてへこたれてしまうようでは、生業にはならない。自分の心の容量がどれくらいかを自覚することは、実に大切なことだと思う。