- 作者: 畑村洋太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/04/15
- メディア: 文庫
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読んで良かった本。「失敗」について、その原因/性質/効果/利用方法などを包括的に分析している。後半は一歩進んで、「創造する/考える」ことを失敗(≒試行錯誤)を土台にして検討しており、更には失敗を受け入れて有効活用するための社会システムを構築する必要性、というところにまで踏み込んでいる。斬新なテーマの設定といい、包括的かつ具体的な論述といい、著者の柔軟で前向きな思考といい、非常に良い本だった。失敗をテーマに書かれた本では、『失敗の本質』も有名だが、こちらはあくまで「日本軍の組織論的な失敗について」という具体的な事例を検討する範囲にとどまっている*1ので、「包括的に失敗を考える」という意味では、やはりこの『失敗学のすすめ』はとても斬新な本であると思う。今後も繰り返し読むことになるだろう。
失敗をしてしまった、という事実が発生したならば、その状況から一歩でも前に進むためにはその失敗を分析し、組織で共有して、それを乗り越えるシステムを構築しなければいけない。と、考えれば当たり前のことであっても実行するのは非常に大変なわけで、それを示す事例はいくらでもある。おそらく、その「大変さ(=難しさ)」の原因は、失敗についての知識不足もあるのだろうが、より根本的には著者が書くように、失敗を忌み嫌う人の/社会の態度にこそあるのだろう。成功するために、もしくは致命的な失敗を防ぐために、不可避な失敗を受け入れて更には利用して乗り越えていく、という態度で考えていくことができるかどうか。
この本を読んで副次的に気付いたことは、ポジティブシンキングには2種類あるということ。ひとつは、著者の畑村氏のように、嫌な/悪い/辛いといったマイナス事項に正面から向き合い、それを乗り越えることで成功に向かおう、きっと乗り越えられると考える態度。もうひとつは、マイナス事項をまるで存在しないかのように無視して、良いことばかりを考えていればそれが実現するとする態度。私が長年ポジティブシンキングに対して抱いていた嫌悪感は、後者のものに向けられていたものだったのか、とようやく理解できた。
*1:だからといって劣っているとかそういう意味ではありません。『失敗の本質』は紛れもなく名著です。