- 作者: トルストイ,木村浩
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年末から読み始めて、ようやく読了。とにかく長い。ドストエフスキーの小説に比べて、のめり込むように読むことが出来なかった。農業経営論のあたりはもう少し端折ってほしかったかな。しかし、後半第七編、八編の怒涛かつ濃密な文章はさすが。特に第八編などは著者トルストイの思想が小説の登場人物を通して現われており、『カラマーゾフの兄弟』の大審問官の部分を思い出した。
読後の感想としては、著者による知性(または理性・哲学・知識・主義・近代)批判にどういう印象を持つかで変わってくるだろう。私は、誰しも人間が持っている、どろどろとした感情・欲望の強さを描いた部分に共感してしまったので、生々しい獣じみた人間というものに対する知性の限界については十分理解できる。しかし、思索を放棄したところに幸福が現われる、という(リョーヴィンにとっての)結末にはどうにも納得いかない気持ちもある。*1
感情や欲望は、人を突き動かし、飲み込み、破壊する。(それを捨てるのでは無く)それに真正面から対抗することが人生なのだろうと思うが、知性というものはそのためにこそ必要なものだと言えよう。ただし、知性をもって感情を支配して自身の望むようにコントロール出来る、という考えや、一見感情を支配しているように見えて実はそれにぶつかっていく労から逃げているのに過ぎない場合(登場人物ならカレーニンが好例)などは、知性の位置づけを間違っていることから来る過ちである。感情や欲望に支配されないために必要なのは、知性だけでは不十分であり、より必要なのは「善へ向かう折れない意志(しぶとさ・タフネスさ)」だろう。
ともあれ、本書は味わい深い独り語りで締められる。人の幸福は、哲学や主義といった言語の範疇を超えたところにある/人生に対する疑問に対しては、思索ではなく、生活と義務こそが教えてくれる/そして、その答は、実は最初から人間の心の内部に存在している。・・・・・・こうしたことは、永遠の課題のひとつと言えるので、本書も永く読み継がれていくのだろう。
最後に。この本に出てくる登場人物は、愚かな(そして同時に愛すべき)人ばかりである。しかし、「私だったら、もっと上手に問題を処理できるはずだ」などと考えるのは、単なる思い上がり(もしくは勘違い)に過ぎない。このどうしようもないほどに醜く、どろどろとした人間の姿*2を生々しく描いたところにこそ、本作の素晴らしさがあるのだろう。