雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

混合診療

 結構大事な話であると思うので、長々と書いてみる。

 


 直感的には地裁の判決が当然のことのように思えるのだが、果たして。


 医療保険の適用を受ける治療については、費用を医療保険で負担する。それとは別に(もしくは上乗せして)、医療保険の対象とならない治療を受けたい場合は、その分についての費用は全額自費負担とする。・・・と、単純に考えると、混合診療の場合でも、本来給付対象となる医療行為に対しては当然医療保険が適用されるべきだと思われる。しかし、これまでは混合診療は禁止されてきたわけで、ということはそれなりの理由があるに違いない。例えば先ほど単純化したモデルでは、何か重大なポイントを見落としているのかもしれない。そう思って、混合診療に反対している日本医師会のサイトを見てみた。


 混合診療は、医療保険を根幹から変えることにつながり、医療機会の不平等を招くから良くないそうだ。なるほど。でも、この文章、ちょっと変だと思う。

(1)規制緩和の一環としての「保険診療と保険外診療との組合せの自由化」による消費者の選択肢拡大

という混合診療肯定側の立論に対して、

しかし、政府サイドのこれらの主張の背景には、(2)に示す公費支出の縮減や医療費のコントロールという本音が隠されていることは周知の事実であろう。

と議論をずらして、医療費総額を抑制する政府の方針に異を唱え、

医療費の伸びをコントロールする必要性があるのなら、医療提供体制や診療報酬体系のあり方の見直しの中で、制度論的にアプローチするのがあるべき姿であろう。

とまとめてしまう。医療費抑制に反対するのは理解できるけれど、結局、上記(1)の「患者の保険外診療を選択する自由」については、触れずじまいで終わってしまう。いや、そこはスルーしちゃ駄目でしょう。これこそが、一般の患者さんが混合診療を欲する主たる理由なのではないのか?


他にも、

(3)日本で認可されていない技術や医薬品の使用

についても、

最適の選択としての治療法や検査、投薬について、当該技術等の有効性や安全性に関する科学的根拠が確立されているにもかかわらず、保険適用がなされていないということは、不合理以外のなにものでもない。

と述べ、

新たな診断・治療技術や医薬品等の保険適用に関して、これを迅速化するルールを速やかに設定し、審議過程や保険適用の基準を明確にすることが必要である。

と締めくくってしまう。


 「べき論」として提案している内容には特に異論はないけれど、薬害エイズ事件を思い浮かべても分かる通り、新薬や新技術の有効性や安全性については結論を出すことには慎重にならざるを得ないだろうから、どうしても時間がかかる。そしてそうしている間に、人は次々に死んでいってしまうわけだ。その具体的な死にゆく人や家族にとっては、あらゆる可能性を試してみたいわけで、そしてそこには当然金の問題が絡んでくる。数千万円かかる治療については手が届かなくても、数十万円の治療なら試してみようとするだろう。それが有効かどうかは分からなくてもね。そのときに、「この分については保険対象外となるので混合診療になります。従って、保険適用の対象となる治療についても100%自己負担になります。ということで診療額は・・・」と言ってしまうのが日本医師会なのだろうか。いや、そんなことは無いと思いたい。


 平等性についても強く主張されているが、何のための平等なのかがよく分からなかった。例えば全ての患者から医療を取り上げたら、医療機会は平等にゼロになるのだが、そんな平等を目指しているわけはないし・・・。そもそも、例え医療保険が適用されなくても、一定以上の金持ちは全額自己負担で払ってしまうだろう。つまりは制度に関係なく、金持ちは制限を受けることなどないのであって、医療サービスを受ける機会に関しては不平等は避けられない。それに、混合診療が認められるならば、医療保険が適用される部分が拡大することは医療を受ける機会を底上げしていることと考えられるので、貧富による格差の是正につながると言えるのではないだろうか?


 保険については、こんなことも述べられている。

公的医療保険の給付が相対的に小さくなり、患者負担が増大すれば、所得に余裕のある需要者は私的保険を通じた保障を求める行動をとることが予想される。

 
 混合診療が公的医療保険の意義を低下させ、民間の医療保険が中心となるアメリカのようになるとのこと。それは確かに良くなさそうだ。しかし、公的医療保険の給付が相対的に小さくなることは、混合診療だけのせいでもあるまい。例えば保険率が2割負担から3割負担に変わったことの方がよほど大きいのではないのだろうか?そもそも、生命保険や医療保険や年金保険など、膨大な保険料を支払うことが既に一般的である日本社会において、民間保険が公的保険を潰すということが本当に起こり得るのか疑問ではある。ただ、色々疑問には感じるのだけれど、公的医療保険の衰退に繋がる可能性が無いとも言えないだろう。そこのところは、良く分からない。


 と、ここまで書くと日本医師会の主張*1と違いすぎて不安になってしまった。何せ相手は専門家であるわけだし、そんな変なことを主張するはずが無いと思うのだが(権威主義的だろうか?)。うーん。

*1:こんなサイトも発見。分かり易く説明してくれているが、内容は上記見解と同じである。http://www.med.or.jp/nichikara/isei14.html