- 作者: 遠藤周作
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1993/06/04
- メディア: ハードカバー
- 購入: 1人 クリック: 7回
- この商品を含むブログ (47件) を見る
最近はインドに関する本ばかり読んでいる。大抵は紀行文やドキュメントなのだけれど、この本の形式は小説なので、何だか新鮮に感じた。遠藤周作後期の作品。穏やかで深みのある文体が心地よかった。
この世の社会は、個人が何かを堪えながら/隠しながら/求めながら、各々の人生を引き受けていて、どうやらお互いを理解することは、ほとんど不可能なほど困難なようだ。そうした人間の宿命を前にすると、「救い」があれば良いのにな、と思う。救いはあるのか、それともあったように見せかけておいて実は単なる錯覚に過ぎなかったのか、答は客観的には現われてこない。答は、全てを抱えて死んでいく者の中にだけあるのであって、外から他人には覗き見ることなど出来ない。
おそらく、「救い」も「答え」も世界は与えてくれないのだ。全ては、ただそこに「在る」に過ぎない。そしてもちろん、「在り続ける」ことは出来ず、「流されて」いく。「死」、「救い」、「神」、「他者」・・・、そんな混沌としたテーマを書く舞台として、ガンジス河およびバラナシが最適だったのだろう。何もかもあるがままに過ぎ去ってしまう様子がとても哀しい、名作であった。