雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

こころ

こころ (新潮文庫)

こころ (新潮文庫)


人を信じるということは、本当に難しいことだ。「先生」は、叔父に信頼を裏切られて世間を信じなくなり、今度は自らが友人を裏切ったことで自分を信じなくなってしまった。不信が不信を呼ぶ悪循環から抜け出すにはどうしたら良いのだろうか。「誰も、自身すらも信じない」と諦めたところで、切ない「希望」は生きている限り湧いてくるだろう。楽になりたければ死ぬしかないのだろうか。先生の、結婚後の生活には苦しみと悔悟しか無かったのだろうか。いや、そんなことは無い、はずだ、と言いたいが。


実父が死に、明治天皇も死に、乃木大将も死に、kも死に、先生も死ぬ。kの死の場面を思い返す度に涙ぐんでしまうのは何故だろう。好きな娘の相談を打ち明けた相手が実はその娘と結婚が決まっていたと知ったときの気持ちは如何なるものだっただろうか。自分がピエロであったと気付いたときのその羞恥心。友人と恋心を同時に失ったときの気持ち。恋のために自らの「道」を捨てようとしていた自分への気付き。・・・そうした様々なこころが、次の一言に集約されているように感じたのだ。

もっと早く死ぬべきだのに何故今まで生きていたのだろう

嗚呼、なんという言葉だろう。何度か頭の中で繰り返してみると、絶望感に押しつぶされそうになる。「精神的に向上心の無い者は馬鹿だ」の発言が同一人物によるものだとは思えないではないか。いや、向上心の強い人間ほど挫折しやすく、そしてそのときの絶望感はより強いということか。