雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く

 

ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く (岩波新書)
 

 

金成 隆一著。ドナルド・トランプが大統領選に勝った背景を、アメリカ国民へのインタビューを通して浮かび上がらせる書。読みやすく、考えさせられる良書だった。最近本書の続編が発刊されたそうなので、是非読もうと思う。

 

日本人が雰囲気(空気)で政治家を選んでいると評されて久しいが、アメリカ大統領選挙も同じなんじゃないか、と感じた。共和党民主党か(政党の方針/ポリシー)には何の関係もなく、「言葉の意味は分からないが、とにかくすごい自信だ!」と感じて「トランプという象徴」に投票したアメリカ国民が大勢いた。考えるべきポイントは、トランプという一個人が異常かどうかではなく、なぜトランプという人が選挙で勝利したか、である。

 

グローバル化は、全ての人に広く薄く恩恵をもたらしたかもしれないが、その競争の勝者は世界のごく一握りだ。同時に、先進国の栄華はいつまでも続かない。昨日の勝者は、明日には敗者になるし、豊かだった者が貧乏になる日も来る。競争がある以上、勝者と敗者は必ず生じる。それでも、そこから生じる格差を放置していては、敗者の恨み、怒り、自暴自棄、そういった負のエネルギーは増大する一方だ。本書からは、年々蓄積されていった「反エスタブリッシュ」という火に、トランプがガソリンをかけて爆発していった様子が見て取れる。

 

仕事がなくなるということは、その個人が生活の糧を失って苦しむことだけでなく、地域社会の活気をなくし、そこに暮らす人々の希望や夢を奪うことである。その事態の深刻さが、本書では繰り返し登場する。 最初から貧乏だった人よりも、以前は豊かだったのに貧困に陥った人の方が、「古き良き時代」を知っている分、かえって苦しみ、現状を恨めしく思うだろう。トランプが繰り返し唱えたスローガン、「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again!)」は没落したミドルクラスに深く刺さった。

 

本書で描かれたアメリカは、実に日本と似ている。失われた30年と少子高齢化の進展による閉塞感、ミドルクラスの没落と貧困率の上昇、そして地域間格差の拡大。「自分達の声など、だれも聞いてくれない」と、ルサンチマンのエネルギーはマグマのように蓄積する。民主主義である以上、富裕層の一票も、貧困層の一票も、同じ重みをもっている。現状を放置していると、いつか必ず揺り戻しが来る。選挙に際して政策で判断するのではなく、現状を壊してくれそうな人を選ぶ、これからはそうした傾向がより強くなっていくことだろう。