雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

働くことがイヤな人のための本

 

働くことがイヤな人のための本 (新潮文庫)

働くことがイヤな人のための本 (新潮文庫)

 

 

 中島義道著。いつもの中島節ではあるが、仕事に対する思い、人生に向き合う姿勢、いずれも著者の考えに深く共感することができた。人生は理不尽なものであり、それを所与のものとして生きる。成功するかどうかは偶然に左右されるが、食べていくためには働くことが必要なので、良く生きようとして挑む、またはもがいていく自身の生き様として「仕事」が存在する。最終的には、金になるかどうかすら重要ではなく、仕事は「良く生きる」という第一目標を達成するための手段に過ぎない。

 

 本作は、「働く」というテーマを掲げつつ、どう生きてどう死ぬか、というテーマに焦点をあてている。次の引用部分は、とても気に入った。まったく同感である。

ようく考えれば、残るのはわずかのあいだだけなのだ。やがて、みななくなるのである。人間は死ぬとずっと死につづけるのだ。一億年経っても生き返ることはないのである。やがて、人類の記憶はこの宇宙から跡形もなく消えてしまうのである。

 

 一方で、著者の死に対する考えには、少しだけ違和感がある。著者のいうように何物にも執着せず死んだように生きれば、死んでも問題は起こらないかもしれないが、死を恐れるあまりに生を棄損するような生き方を私は望まない。生きている限り、どうしても生に執着するものだし、死を間際にしても「もう少し生きたい」と未練がましいことを言う方が自然だろう。もっとも、老いや病気でひどく苦しみ、「早く迎えがきてほしい」と思うようになるかもしれないし、そもそも突然死であれば死を恐れる暇すら存在しない。日常において死を思う心構えを持つのは大事なことだが、一方で、生きていること自体の奇跡に感謝せずにはいられない。私は、私の意識の力だけで生きているのではなく、むしろ肉体に生かされている存在に過ぎない(意識の力だけで心筋を停止できるか、という話)。ナウシカも言っている、「生命はそれ自体が奇跡なのです」と。