仕事と家族 - 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか (中公新書)
- 作者: 筒井 淳也
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2015/05/22
- メディア: 新書
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筒井 淳也著。日本の労働問題と少子化問題との全体像を描いた、とても明快で分かりやすい新書。新書のボリュームでこれだけ説明できるとは驚いた。
特に、日本的な働き方の特徴についての記述を読んで腑に落ちた。一般に「メンバーシップ制」と言われる日本の会社で勤務するサラリーマンには、「職務内容」「勤務地」「労働時間」の3つの無限定性が背景として存在している。
個人的に、日本のサラリーマンにおける転勤制度については昔から違和感を抱いており、地方の過疎化と東京一極集中問題、そして個人におけるふるさと喪失問題(またはアイデンティティー獲得の困難さ)の根っこにあると考えていたのだが、当然にこの「勤務地の無限定性」は、家族間における共働きを抑制させる副作用もあるわけだ。
また、仕事内容がころころ変わるのは、自身の職業がなんであるのかが曖昧な日本的サラリーマンの特徴であり、労働時間の無限定性とあわせて長時間労働(非効率な労働)の温床にもなっている。もっとも、これらの無限定性のおかげで、日本は不景気時にも失業率が諸外国ほど高くならなかったわけであり、全否定することもできないのだが。
本書の狙いは唯一絶対的な回答を指し示すことではないが、仕事と家族を誰もが両立できるような社会づくりにむけての有用な提言が整理されている。少子化問題については、大して根拠のない憶測や暴論が堂々と主張されるので、本書のような、データに基づいた緻密で冷静な論がもっと増えると良いと思う。大変参考になった。
参考サイト→「共働き社会化」の光と影――家族と格差のやっかいな関係 / 筒井淳也 / 計量社会学 | SYNODOS -シノドス-