- 作者: ポール・オースター,Paul Auster,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1997/09/30
- メディア: 文庫
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ポール・オースター(Paul Auster)著。フォッグ、キティ、ビクター伯父、老エフィング、そしてソロモン。5人の登場人物が(いや、登場人物のほとんどが)それぞれ大切なものを喪失していく物語。失ったからといって、必ず何か代わりのものが得られるわけではなく、それでも人生は続いていく。それが希望なのか、残酷なことかは分からないけれど。
喪失感に対して人は、石のように耐えて立ち向かうのか、代わりの何かを手に入れようとするのか、流れに身を任せて感じることを止めるのか、それとも失った全てを「無かった」ことにするのか。人間、生きていれば必ず別離は訪れる。誰もが死ぬまで何かを失い続ける。だから、この小説を読む人は、どこかで必ず登場人物に共感を覚えるはずだ。その際には過去の記憶が蘇り、切ない気持ちになることだろう。
僕らはつねに間違った時間にしかるべき場所にいて、しかるべき時間に間違った場所にいて、つねにあと一歩のところでたがいを見出しそこない、ほんのわずかのずれゆえに状況全体を見通しそこねていたのだ。要するにそういうことに尽きると思う。失われたチャンスの連鎖。断片ははじめからすべてそこにあった。でもそれをどう組み合わせたらいいのか、誰にもわからなかったのだ。(柴田元幸訳、新潮文庫、p.358)
いつか、エフィングやフォッグが訪れたユタ州のようなところに行ってみたいものだ。広大な大地が、ただその広さゆえに、人から距離感と時間、そして自意識まで奪うような、そんな果てしない大地に行ってみたい。