雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

グラン・トリノ

 孤独、信念、自負心、後悔、妻への愛情、そして自己犠牲と人生の締めくくり。戦後最大の映画スターのひとりである、クリント・イーストウッドは自分を用いて(彼自身でなければ意味がなかっただろう)、今回の主人公ウォルト・コワルスキーを作り上げた。イーストウッドは西部劇の世界を現代に蘇らせ、年老いた男の生き様を、笑いと涙を添えて見事に描ききったと思う。その偏屈さや口汚い言葉は単に表面的なもので、その内側にある素朴な、苦悩する魂を覆い隠す役割しか持たない*1。「ピカピカのクラシック・カー」グラン・トリノのように、古くて時代遅れと呼ばれても(古いからこそ)、分かる人にだけ分かれば良いという素晴らしさはきっとあるのだ。


 あとこの映画、エンディングの美しい景色も素晴らしかったと思う。広々とした青空、風になびく樹木、遠くまで続く道路・・・。この映画の、そして俳優イーストウッドの終わりを惜しみつつ余韻に浸る、そんな時間を与えてくれた。きっと、観る人によって異なる、様々な余韻があるのだろう。そしてそれは、私の思う「良い映画」の重要な要素でもある。素敵な映画だった。

*1:男はシャイであるべしという、これもまた伝統的な男性像であろう。河島英五の歌が思い浮かぶ。