雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

猫にかまけて

猫にかまけて

猫にかまけて


 猫との暮らしを、笑いと涙で描いたもの。町田康氏の著作にしては珍しいほどに感傷的だと思うが、ココアやヘッケが弱っていく様子は本当に哀しいもので。一度でも猫を飼ったことのある人ならきっと泣けてしまう。


 著者の猫に向ける視線は、愛玩動物に向けられたものというよりも、家族に接するときの視点に近い。「人間とは違う種の動物」であることと、「自分と同じ生き物」であることとを混合させた結果の、ニュートラルな視点とでもいうか。そして、本に登場する猫達の自由奔放な、素直で飾らない生き様から人間が学ぶべきことは、確かにある。虚栄心や嫉妬心のくだらなさを書いている部分は、本当にそのとおりだなと思う。


 
 この本を読んでいて、私は近所の飼い犬のことを思い描いていた。通勤経路に位置しているので、毎朝その犬を眺めながら駅に向かうのだけれど、四足でしっかと立って空や電柱を見つめる彼を見ていると、なんだか出勤意欲が失せてしまうのだ。ただそこに立ち、または座り、何かをぼんやりと眺めたり、うろうろと歩いたり、吠えたり、寝たりする。そんなことを時間の無駄のように感じる自分の思考回路が、なんだか馬鹿げたもののように思えてきてしまう。自分の頭の中にある、たくさんの無意味な装飾物や、無駄で醜悪な感情を捨てたいと反省したりして。そんなものよりも大切な何かを捨て続けて日々の暮らしを送っているのではないか、今日は遅刻しても良いからこのまま犬を見つめていようかな、などと考えてしまうのだ。