雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

パラダイス・ナウ

パラダイス・ナウ [DVD]

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 昨日に続いて重い映画。イスラエル占領下パレスチナで、自爆テロに向かう若者を描いた映画。作品のクライマックスである主人公の独白シーンは、暗く、そして静かに、怒りと悲しみと絶望を伝えていて、涙が出た。理屈上は他に選択肢があるかもしれないが、そうした可能性など消し去り、世界の暗闇だけを見つめて死んでいく主人公は、決して笑顔を浮かべることはない。


 この世に生きる人の命に価値を認めない世界において、希望や幸福なんてあるわけが無いのだ。だからといって、イスラエルの立場に立って語る気は無いが、殉教(自爆テロ)を是とする組織に賛同することはどうしても出来ない。この作品が描く社会の中では、若者は単なる駒として扱われ、簡単に殺されていく。もちろん、敵の誰かを道連れにして。


 ・・・私が抱いている違和感の正体は結構単純なものだ。若者に対して、国家や組織や教義のために死ね、という場合、その命令を下す者が生きていること自体に憤りを覚えてしまうのだ。まずお前が死ねよ、と。いつもはネタとしてのみ扱っている又吉イエス氏の言葉も、何だか今日は理解できる気がする。他人を殺すなら、自分が死ぬべきなのだ。英雄主義を煽り、敵を殺すために同胞を使い捨てる者は、自爆テロに限らず、いつだって、どこにでもいる。


 大抵の争いは、第三者から見れば、「二つの相容れない正義」が存在しているようにしか見えない。だから、正義論で決着は着かない。「他に道は無い」ことを示したこの映画に込められた、もうひとつのメッセージである「他に道は無いのか」という声にこそ、あらゆる可能性が秘められているのだろう。迷い続けることこそが、真にタフなことなのだから。