雑記帳

関西在住の中年男性による日々の雑記です。

グッバイ、レーニン!

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 面白みと悲しみ、そして不思議な魅力がある映画だ。ベルリンの壁の崩壊の前後の東ドイツを舞台にして、個人と家族と国家の関係を主軸に描かれた作品。


 母親に対する主人公のけなげさが印象的で、この物語は、その前提からして悲しい喜劇とならざるを得ないのだが、主人公の懸命さは様々な矛盾を抱えたり周囲との軋轢を生み出しつつも、母への純粋な愛情を伝えてくる。いつしか、主人公が持っていた国家に対する願望が*1母への愛情よりも表立って現われてくるのだが、そこが何とも悲しいのだ。社会の流れや、時代の動きに、個人はそう簡単についていくことは出来ない、しかし、そうだとしても、我々は大きな流れに翻弄されつつも、環境に適応していくしか選択肢は無いのだ。


 というように、この映画は一貫して主人公の成長を描いていると解釈して良いだろう。迷ったり焦ったり、人に迷惑をかけたり助けられたり、恋をしたり友人を得たり、母を失ったり、失った父に出会ったりして主人公は大きくなっていく。ユーモアが優れている分、隠れてしまいがちではあるが、個人と家族と国家の関係を正面から描いた脚本は素晴らしいと思う。印象に残ったシーンは、最期に母が見せる微笑み。おそらく全てを分かった上で、息子への感謝と困惑と悲しみなどが入り混じった表情だったのだろう。


 この映画、私がドイツ人であればきっと号泣して観たんだろうな。亡き故国ユーゴスラビアを描いたクストリッツァの『アンダーグラウンド』を思い出した。最後に。エンディングテーマがやたらとかっこいいです。

*1:いや、おそらくは少なくない東ドイツ国民が抱いていた現実に反する願望か。